第350章

 山口夕夏は、前田南の肩を軽く叩いた。

「ちょっとお手洗いに行ってくるわ」

「ええ、いってらっしゃい」

 南は頷いた。

 夕夏が席を立ち、歩き出して間もなくのことだ。何者かが彼女の行く手を遮った。

 目の前の人物を認め、夕夏は不快げに眉を寄せる。

「どうしてここに? しばらく会わないって言ったはずよ」

「妻に逃げられた夫が、迎えに来ない道理はないだろう?」

 高橋亮介はそう言って、彼女の肩を抱こうと手を伸ばす。

 夕夏は一歩後ずさり、その手を避けた。彼女の表情は冷ややかだ。

「新しい奥さんでも探したら?」

「夕夏、そんなことを言わないでくれ。俺の妻は君だけだ」

 亮介...

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